じいちゃんの心構え
配達用の車はサニトラだったっけ
じいちゃんは商人だった。
ひいじいちゃんから続く2代目のお米屋さん。自営で米屋を営んでいたじいちゃんから店を継いだ父は毎日忙しく幼少の頃面倒みてくれていたのは父でも母でもなくじいちゃんだった。保育園や小学校から帰ってくると毎日のように車の助手席に座らされ、近所の親戚の家に行ってお茶を飲む。そんな日々が続いていた。その車中でいつもじいちゃんが私に説教の様に離していた事を《じいちゃんの心構え》としてメモ程度に残していこうと思う。
《じいちゃんの心構え》
お客様のその先の人たちが本当のお客様だよ
その言葉を聞いた時は全く意味がわからなかった。
じいちゃんは窓を開けサイドミラーの角度を直しながらさらに話を続けた。わざわざ店まで足を運んでお米を買っていってくれるお母さん達。配達であんみつやプラッシーを届けると玄関口で快く迎えてくれるおばあちゃん達。その人たちは実際にお米やあんみつやプラッシーやお釜にポンを買ってくれるお客様だよな。だからもちろん感謝しなきゃな。でもね、そのお米を食べてくれる食卓を想像するんだよ。食卓には炊きたてのご飯を食べゴクゴクとプラッシーを飲んでいるお父さんや子どもたちがいるだろ。そのお父さんや子供たちやおじいちゃんおばあちゃんが本当のお客様だからな、と。
親戚の家に着いたところで話は終わったけど意味不明だった。その場でじいちゃんには言えなかったけど買ってくれる人=お客様じゃないのか?としか思えなかった。
その後、家に帰ってからおばあちゃんにこの話をしたら笑顔でこう補足してくれた。
それはおじいちゃんがお客様に本当に喜んでもらうための秘訣を教えてくれたのよ。お米を買っていくお母さん達はそのお米を自分でも食べるけど家族にも食べさせるでしょ。その家族が、美味しい、美味しいって言って食べてくれたら、お米を買ってくれたお母さんも嬉しいでしょう。だからそのお父さんやお子さんの笑顔を想像してお米を買ってもらえる努力をするのが大切なのよ。そうすればお母さん、つまり目の前のお客様は本当にうちのお米を買って良かった、と思ってくれるの。
あなたがこれから大きくなってね。仕事をし始めた時に目の前のお客様にきちんと接して良いもの提供する努力は怠らない。これは当たり前の話でできると思うわよ。でもあなたのお客様にとって本当に心の底から喜んでもらうにはそのお客様の周りの人たち。つまりご家族やお客様の取引先、仕入先の人たちまでにも喜んでもらうぞ、という心構えで仕事に取り組みなさい、ということですよ。おじいちゃんは今までそうやってきたからあなたにもそうしてもらいたいんじゃない。
ちなみにじいちゃんは麻雀が大好きで戦後、麻雀仲間に金を借りて米屋で独立したらしいというのが最近発覚してたまには昔を思い出しながらじいちゃんの心構えをメモしていこうと思った。